Chira Chiara|キーラキアーラ

梨木香歩「家守綺譚」のサルスベリ

スタッフ通信|2020/07/30 posted.

大阪天満橋でひっそり活動中。
ハーバリウム制作ワークショップが大人気のキーラキアーラです♪

、輝く青い空に負けない華やかさで、ふわふわとしたピンク色を咲かせている庭木をご覧になったことはありませんか?

今回は、暑い夏に涼しい風を吹き込んでくれるような、しっとりした情感が美しい小説家守綺譚」とサルスベリの花をご紹介いたします。

懐かしい幻想の日本
梨木香歩の「家守綺譚

左は、学士綿貫征四郎の著述せしもの。

小指の先ほどの厚さもない、軽くてふにゃっとした文庫本家守綺譚は、本屋さんはもちろん、古本屋さんの表に出ているカートなどでもよく見かける人気の小説です。

主人公綿貫征四郎、作家志望の青年です。
学業を修めてから、英語の非常勤講師などをしながら食いつないでいるとき、行方不明になった学生時代の友人高堂の父親から家の守をしてくれないか」と持ち掛けられ、物語がスタートします。

綿貫が住んで手入れをしてくれと頼まれたのは、たぶん京都琵琶湖のあいだの山科にあるのだろうなぁと思われる、電燈のある二階建て一軒家
その家の庭に面した縁側から、池を挟んで向こう側に植わっているのがサルスベリの木です。

サルスベリってどんな

ではまず、学士綿貫征四郎氏が庭のサルスベリについて述べるところを確認しておきましょう。

サルスベリというぐらいであるから、木肌すべすべとしていて撫でると誠に気持ちがよろしい。(中略)腕を伸ばして頭の上ぐらいから手のひらを滑らすとするするつるつると、なんのつっかえもなくなめらかにしっとりと足元まで撫でることが可能である。木肌の多少の起伏も感触に興趣を添える〉

サルスベリは、桜よりも濃いめの上品な桃色をしている。それがとなり、風が吹くと座敷の硝子戸を微かな音でたたく〉

なるほど、こんな庭木です。

サルスベリ漢字で書くと「猿滑」、または「百日紅
猿滑」はその木肌のつやつやした滑らかさから、木登り上手のサルだって滑り落ちてしまうだろうというネーミング。
百日紅」は、初夏からにかけての長い期間、褪せることなく赤い花を咲かせ続けることに由来します。

また「紫薇(しび)」と書かれることもあるのですが、これはちょっと中華テイスト。
白居易七言絶句紫薇花」という作品は、サルスベリがたくさん植えられていたことから「紫薇省」と呼ばれていたお役所に勤めていた時代のことを歌っています。

漢文にも登場するサルスベリ原産地は、中国南部です。

日当たりのいいところに植える必要はありますが、サルスベリ育てやすいとされているうえに、華やかさたっぷりなので、玄関先の手前のほうなど、目立つところで主役を張る庭木として人気です。

丸っこいツボミから、夏の訪れとともに、ふわふわフリフリのレースのようなを咲かせ、になれば紅葉することもあるサルスベリには、どちらかといえば女性的な雰囲気の美があります。

サルスベリのやつが、
おまえに懸想をしている。

では家守綺譚」のサルスベリに話を戻しますと、なんと彼女は新しくやって来た家守の綿貫にをします。

――サルスベリのやつが、いまえに懸想をしている。
――……ふむ。

そのことを綿貫に教えてくれたのは、なんと行方不明になった高堂。本来ならばこの家に住んでいるはずだった、綿貫の親友です。

近隣の住人が〈このサルスベリがこのように隆盛に咲いている様は初めて見た〉というほど、綿貫が移り住んできた年のサルスベリはゴージャスに咲き乱れます。

そこまではよかったのですが、化けていた……。
裏側から見ると幹が大きくえぐれて、皮一枚でかろうじて生きているような古木ですもんね。化けることもあるでしょう。
それを不用意に撫でさすってかわいがったりしたものだから、風雨の夜にガラス窓に体当たりするほど揺れて「……イレテオクレヨウ……」とすすり泣きます。
かなり怖い

それを見かねて助けに来てくれた高堂が、いったいどこから登場するのかといえば、なんと掛け軸の中から。
床の間に飾ってある、水辺を描いた掛け軸の奥から漕いで来るボートに、行方不明になった親友の姿をみとめて、綿貫が思わずかけた「逝ってしまったのではなかったのか」っていう言葉が、私はなんだかじーんと好きですし、それに悪びれもしないで「なに、雨に紛れて漕いできたのだ」なんて答える高堂も、物語にちりばめられている不思議を当たり前に受け入れさせてくれる道案内役として、とてもステキだなぁって思います。

とりあえず、高堂のアドバイスを活かして、綿貫とサルスベリはいい感じの距離感(家守庭木)として上手くやっていくことができるようになりました。
このエピソードが、連作掌編小説家守綺譚」の第1話です。

文明自然の縁にある
四季の巡る日本

サルスベリから始まって、白木蓮都わすれ木槿ヒツジグサツリガネニンジン、ダァリヤ(ダリア)……と、綿貫の暮らす高堂の家は四季折々の草木に取り巻かれて、それだけでも魅力的
そこへ懸想する花の精だとか、ふと訪れるボート事故で死んだ友人だとか、だとか、人魚だとか、河童だとか、秋の女神竜田姫だとか、当たり前みたいに現れる(私たちには)不思議な存在が加わって、物語はいよいよ切ない懐かしさとともに盛り上がっていきます。

ちなみにサルスベリちゃんは、ほかのお話のなかにもチラチラと姿を見せてくれるので、再会できるとなんだか嬉しくなります。
あまりネタバレをするものではないと思うので、具体的なことは伏せさせていただきますが、とくに格好いいエピソードがあるので、ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。

短編集と紹介されることが多い小さな本ですが、読みごたえは抜群
高堂の失踪という背骨が物語を支えているので、クライマックスを飾る「葡萄」までたどり着いたときには、ぐっと感動を覚えるはずです。

文庫版の巻末には、綿貫征四郎が月刊誌に投稿したエッセイというかたちで『烏〓苺記(やぶがらしのき)』という作品も収録されているのですが、これもぜひお読みいただきたいなぁって思います。

ここだけは古めかしい書きぶりになっていて、ちょっと読みにくいかも知れないのですが、時間の止まったような「葡萄」に描かれる湖の世界と、すべてのものがカタチを変えて巡り続ける綿貫の世界との対比が、とても美しいと思いました。

読書感想文題材にもオススメです。
国語が得意なら小学校高学年くらいからでも読めると思います。
私はこのまま一生を通じて、折に触れて何度でも読み返す予定です。

のなかにを浮かべる
鑑賞用植物標本ハーバリウム

ところで、このブログはハーバリウムの制作体験ワークショップが人気の当店キーラキアーラのスタッフが書いておりますので、最後にちょっと販促させていただきたいと思います。

本物の植物光を集めるオイルとともにガラスのボトルに封じ込め、その美しさを長く楽しみたいなぁというキモチは、たぶん「葡萄」の世界にグッときたタイプの皆さまには特に共感しちゃうところがあるのではないでしょうか。
巡る四季は窓の向こうにありますし、ここはひとつボトルの中へ、穏やかに静止した世界を持ってみちゃいませんか?

当店の1コマ完結ハーバリウム制作ワークショップでは、講師がご用意する50種類以上花材自由にご利用いただけます。
時期によって花材の品ぞろえは異なるのですが、お部屋に飾るのにちょうどいい大きさのボトルにも使いやすい小さなバラの花はかなりの人気。当店をご利用のさいに見かけられましたら、ぜひデザインに取り入れてみてくださいね!

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当店キーラキアーラのワークショップは完全予約制
少人数でのレッスンにこだわり、質問のしやすいアットホームな雰囲気づくりに努めております。
また、まずは取り扱いについてなどの説明をしっかりと行いますので、安心安全ハーバリウムをお楽しみいただけます。

まずはハーバリウムってどういうモノなのか知りたい方はコチラから。
⇒ハーバリウム(herbarium):言葉の意味とその姿

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