Chira Chiara|キーラキアーラ

梨木香歩の「春になったら莓を摘みに」

スタッフ通信|2021/03/05 posted.
梨木香歩の春になったら莓を摘みに

大阪天満橋でひっそり活動中。
ハーバリウム制作ワークショップが大人気のキーラキアーラです。

植物を使ったインテリア用品ハーバリウム」の制作体験ワークショップが人気の当店スタッフは、もちろん植物が好き
理想の窓辺を想像したら、そこにはいつも緑にあふれる景色があります。ちょっと歩けば行ける範囲に、公園や並木道があったりすると最高ですね。当店の入っているビルの前も、すてきな並木道になっております。

自然と調和した暮らしに関する作品は数多くありますが、以前にブログで取り上げた家守奇譚」の作者である梨木香歩さんが描く植物のある暮らしは、すごくオススメです。
前述のブログで触れたのは、いっぱいにかけて咲くサルスベリ華やかなピンク色でした。今回は、ちょっと寒い季節に読みたくなるような連作エッセイ集「春になったら莓を摘みにをご紹介したいと思います。

異邦人「私」のイギリス暮らし
緑のなかの留学生活

文庫本の裏表紙にある説明文に「物語の生まれる場所からの、著者初めてのエッセイ」と書いてあるので、最初からエッセイなんだなあと思って読んだのですが、もしそのつもりで読み始めていなかったら、完全に小説として読んでいたと思います。

「ジョーのこと」からの引用

梨木香歩の「春になったら莓を摘みには、主人公である「」こと「K・・が大切に友情をはぐくんでいるウェスト夫人をめぐるエピソードを中心とした連作エッセイ集です。
ふたりが出会ったとき、主人公「私」は20代の学生で、ウェスト夫人は彼女に住む場所を提供する下宿屋の女主人でした。
第一話はその下宿で同居したミステリアスな女性「ジョー」について、第二話はウェスト夫人と長い付き合いのあるナイジェリア人一家のエピソードという風に、自身もアメリカ人としてイギリスという外国に生きるウェスト夫人を取り巻く、さまざまな異邦人の悲喜こもごもが描かれています。

暖炉の火みたいに温かさもあれば陰りもある筆致で描かれる異文化交流の様子を、いっそう魅力的に引き立てているのが情景描写です。つい長居させてもらいたくなるようなウェスト夫人の下宿はもちろん、主人公「私」が休暇で訪れるレイクディストリクト(湖水地方)のホテル雪に埋もれた温かい家で過ごすクリスマス走り回るリスの見えるカナダの窓辺など、当たり前のように美しい自然が書き込まれていて、まるで自分も森の香りのする冷たい空気を吸っているような気持ちになれます。

暮らしのそばにある景色

前にご紹介した家守奇譚」は、不思議な力を帯びた日本の自然が押しかけてくるような圧迫感を感じさせましたが、この春になったら莓を摘みに」の自然は、ドアや窓の外にいつも静かにあって、こちらから視線を遣ったときにだけ気付くことのできる、舞台の奥に掲げられた美しい背景画みたいな気配を帯びています。

ものがたりを追っていると、気が付けば赤ギツネリスのやってくるお庭のある【すてきな西洋のお家を夢見るようになってしまうのですが、もしも「春になったら莓を摘みに」の登場人物たちが日本に来たら、彼らの滞在する家の窓にはメジロが遊びにきたり、散歩道にはたくさんのが咲いていたりして、やっぱり【すてきな日本のお家】になってしまうような気がします。
どこに視線を向けて生活するかで、見えるモノってぜんぜん違いますもんね。

本の最後にある五年後に」という章は、ウェスト夫人の下宿人としておなじみのギリシャ人エマヌエル来日するので、主人公の「私」が関西国際空港まで車で迎えに行くという風に幕を開けます。
海辺に広がる工業地帯や、お箸の優雅な動き、外国語としての日本語や、当店のある大阪の街角でもよく見かける当たり前のものについて、それまで【すてきな西洋の街】について語っていたのと同じトーンで語られると、なんだかウェスト夫人の下宿が急に陸続きのところに現れてしまったような気がして、そわそわします。

春になったら莓を摘みにからの引用

今は新型コロナウイルスの拡散防止のため、自由な往来ができなくなっていますが、おうち時間を持て余して読書に目覚めた人はたくさんいらっしゃいそうですよね。きっと春になったら莓を摘みに」を読んで、イギリスのナショナルトラストやきりりと寒い冬のアメリカ大陸を目指す人もいることでしょう。当たり前に旅行できるような日々に早く戻ってきて欲しいので、当店スタッフも引き続きおうちでおとなしくしていようと思います。
当店キーラキアーラのホームページに遊びに来てくださった皆さまも、どうぞご自愛くださいね!

【大阪】ハーバリウムを作れるお店《1本/税別2,000円~》制作体験・ワークショップ

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